データ活用シナリオ vol.5

データ駆動コワーキングスペースを中心とするクリエイティブなスマートシティ

-行動データから偶発的な「奇跡の出会い」を促進する-

   

概要

コロナウイルスの流行によって起こった経済的影響、そして働き方の変化における負の側面に私たちはどう対処するべきか。その解決策のあり方として、自治体運営のコワーキングスペースが果たしうるデータ活用の想定シナリオを考えてみます。

 

今回は、より交流や出会いが生まれやすい有効な空間づくりのためのデータ利活用の発想を提供することを目標としました。
スマートシティという言葉が流行っていながらもその全貌が見えていないからこそ、まずは人間の活動の中心となる「仕事場」に焦点をあてて、人間の活動的な日常をより流動的にデザインするためのデータ収集、データ活用について考えるきっかけとなれば幸甚です。

  • 課題
      • ・コロナ禍の個人消費の低下
      •  

      • ・在宅勤務の増加によるコミュニケーション減少・働きがいの低下
      •  

      • ・空き家・空きスペースの増加
  • 目標
    • ・空き家・空きスペースの有効活用
    •  

    • ・個人のコミュニケーション増加・社外のつながりの醸成
    •  

    • ・収集するデータを利用したサービスプロモーションの最適化

サービスシナリオ

コロナウイルスによる負の影響

コロナウイルスにより、人々の活動の実態や傾向が極めて大きく変化しました。
感染予防を目的としてマスクをつけて出歩くのが日常となったことはもちろんですが、それだけではありません。

 

2020年4月に緊急事態宣言がなされ、自宅での自粛生活が推奨されました。それから外を出歩く人数は大幅に減り、NTTドコモモバイル空間統計によると、渋谷センター街周辺では昨年の同時期に比べて約20%人通りが減っています。

 

この影響はオフラインを軸とする産業の消費量の落ち込みを招き、主に飲食業やサービス業に大打撃を与えました。ゆえに、内閣府が発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP)2次速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で1~3月期から7.9%、年率換算で28.1%減っています。

 


図:渋谷センター街周辺における人口増減状況
(青コロナ以前、赤10/20-10/21。NTTドコモ モバイル空間統計より)

 

また、コロナウイルスによる経済の打撃は、人々の活動範囲を大きく縮小した結果、間接的に不動産市場にも大きな影響を与えています。
みずほ総合研究所のレポートによると、「宿泊業や飲食業、娯楽業、理美容などの生活関連産業を中心に、既存オフィスの縮小・撤退による解約や契約の見直し、検討中のオフィス計画の白紙化が水面下で検討されている」と予測されており、今後空きスペースが増えると考えられています。

 
 

テレワークの負の側面

その中で、とりわけ注目すべきなのは、仕事場のあり方、そして、そこでの働き方に与えている大きな変化です。

 

その傾向は、感染防止を目的として、これまでの出社中心から、テレワーク中心へ働き方をシフトする企業が増えているということに明らかでしょう。
東京商工会議所の調査(2020年5月29日(金)~6月5日(金))によると、テレワークを実施している企業は緊急事態宣言直前の調査と比較して41.3ポイント増加し、全体の普及率は67.3%まで上昇しました。テレワーク実施の効果については「働き方改革(時間外業務の削減)が進んだ」が回答者全体の50.1%、「業務プロセスの見直しができた」が同42.3% からあげられてにのぼり、多くの企業が効果ありと回答しています。また、個人差はあるものの、長時間の通勤から解放され、ワークライフバランスを保ちやすくなったこともテレワークの恩恵でしょう。

 

しかし、全体を俯瞰したときの「生産性」という意味では一体どうなのでしょうか。

Eagle Hill Consultingが4月にアメリカの会社員を対象に調査した結果、45%の人がコロナウイルスの影響で生産性が下がったと感じており、25%の人が燃え尽き症候群のように感じています。

 


図:コロナウイルスの影響による仕事の心の変化

 

その原因の一つとしてコミュニケーションの低下があげられています。
同調査では、50%の人が同僚とのコミュニケーションが減ったと感じており、32%はコミュニケーションやフィードバック、手助けの不足が原因で燃え尽き症候群のように感じていると答えています。

また、エン・ジャパン及びGreat Place to Work Institute Japanによれば、「お礼や感謝の言葉」「仕事の成果を認められる」「尊敬できる人と一緒に働く」など、対面でのやりとりでしか得られない安心感や帰属感など、社内外の人との同じ空間に身を置き、関わることによって働きがいを感じるという回答が多くされています。

 

以上より、テレワークでコミュニケーションが少なくなることで、生産性が落ち、働きがいを感じにくくなるという面も存在することが分かります。

 

思い浮かべて欲しいのですが、一人で過ごすよりも複数人で過ごし、コミュニケーションをとったほうが、活動的かつ創造的ではないでしょうか。筆者個人の経験としても、気の合う人と面と向かって話をすると、リフレッシュできるのはもちろん、時には悩んでいたことの妙案が思いついたこともあります。

 

無鉄砲にテレワークを推進し、対面での交流・コミュニケーションを無視することは、企業や地域全体の活気の低下に長期的に影響を与える可能性があります。そこで、企業だけでなく自治体も活気低下の影響を抑止するための対策をする必要があると考えます。

 
 

解決策としてのコワーキングスペース

上記の通り、コロナウイルスの影響で、個人消費の低下、空き部屋・空きスペースの増加、テレワークによるコミュニケーション不足・働きがいの低下といったことが起きると予想されます。感染予防も重要な取り組みですが、経済的な影響も無視することはできません。

 

そこで、今回は上記の問題を解決するために、自治体が整備する「コワーキングスペース」について焦点を当ててみます。

コワーキングスペースとは、共同利用するワークスペースを中心に構成された会社や自宅以外の「第3のワークスペース」を指し、フリーアドレス形式の座席配置によって、情報交換や人脈形成が図りやすい施設のことです。シェアオフィスやサテライトオフィスとも呼ばれることがあり、異なる企業の人々が同じ場で仕事をすることになります。
 


図:コワーキングスペースのイメージ

 

自治体がコワーキングスペースを整備するメリットとして、空き家・空きスペースの有効活用、仕事環境の整備によるテレワーカーの移住促進、そして地域内の相互交流の発生などが考えられます。利用者にとっても、管理主体が自治体になることで、安心して利用できるでしょう。さらに、上記のコロナウイルスやテレワークの影響で起こる負の側面である空き家・空きスペース問題、コミュニケーション不足の解消に貢献することが期待されます。

 
以下では、もう一歩踏み込んで、コワーキングスペースで活動するデータを分析・活用することによる、コワーキングスペース利用者の個人消費を高めるサービスについても検討します。

 
 

サービスシナリオ:データ駆動コワーキングスペースを中心とするクリエイティブなスマートシティ

現在、ユーザーのネット閲覧や購買など趣味嗜好・行動特性のデータから、最適化・カスタマイズされた情報を提供する様々なサービスがあります。それらを組み合わせ、コワーキングスペースを利用する人々の特徴データを材料として取り込むことで、彼らにワンストップで「奇跡の出会い」を提供するサービスを考えます。

 

利用者の特徴データを取得するにあたっては、初回利用時のアンケートで趣味嗜好を尋ね、またスマートフォンのアプリでスペースの利用場所や時間、誰と話したかを記録していきます。そして、それぞれ個人の同意のもと取得し、それらデータを随時蓄積していきます。

 

そこで取得した個人データはPDS(Personal Data Service, 個人の意思のもとで管理するデータストア。)に蓄積され、蓄積されたデータはデータ取引市場を介して、様々な場面で利用されます。なお、ここでデータ取引市場を使用する利点として、提供者の視点では、個々人がデータを管理できる形にすることで、施設が定点的なデータ管理コストを持つ必要がないこと、そして需要者からみた場合、様々なデータ利用者へアプローチできることが挙げられます。

 

取得したデータは様々なプロモーションで利用されることを考えます。
例えば、個人の趣味嗜好に基づいて近隣のレストランや居酒屋をおすすめしたりクーポンを発行したりすることで、コロナで低くなった個人消費を高めることを狙いにしたサービスを提供できます。このとき、性別・年齢以外といった属性情報で分析するだけではなく、より詳しい個人特性や、誰と誰が話していたかという観点から心理的な側面でのマッチングが考えられます。上記のような個人特性でのおすすめをすると、例えば「30代の男性だからこのお店をおすすめする」という一面的な最適化には止まりません。それは、「30代の男性で、いつも金曜日は落ち着いた性格の人と近くの席にいるから、金曜日の今日は落ち着いた店主がいる近くの隠れ家的レストランをおすすめする」といった高度な予測を可能にします。以上はあくまでも筆者の仮定に過ぎませんが、このような高精度な分析により、結果的に近隣地域の消費促進が見込まれるでしょう。

 


図:サービスシナリオの関係図

 

人と人の相性は会ってみないとわからないような感覚・フィーリングのものとされています。しかし、そこにデータを用いることで何らかの関係が見られたとしたら、この人と出会えてよかったという「奇跡の出会い」が起こる確率を高めることができます。出会いは、個人の活力を高め、創作的な意欲を向上させ、リモートワークで感じている生産性及び職場への帰属感の低下を補完する形で、仕事の質をいい状態に保つことにつなげることができるはずです。また、コワーキングスペースでの「奇跡の出会い」が成功すれば、最終的には地域全体がデータ駆動で気の合う人やお店とマッチングできるスマートシティの実現が見えてきます。

 

  • 特徴①

    自治体が運営するコワーキングスペースにて同意のもとでデータ収集
  • 特徴②

    PDSによるデータ管理・データ取引市場を用いたデータ活用先へのアプローチ
  • 特徴③

    近隣のお店やコワーキングスペース内の出会いに関するプロモーション

期待される効果・発展性

  • ・コロナ禍によって減少した個人消費の増加
  •  

  • ・気の合うお店や人との出会いによるQOLの向上・創造性の向上
  •  

  • ・企業、地域全体で個人データを活用するスマートシティ化へのきっかけ

まとめ

コロナウイルスの影響で、人との繋がりに対する重要性を再認識された方は多いと思います。

 

人間にとって、今までの繋がりを大切にするのはもちろんのことですが、新しい繋がりを作っていくことも重要です。
その人と人との温かい繋がりを、データを利用して促進することができるのではないかと考え、シナリオを作成してみました。

 
実は、自治体運営ではないものの、上記のようなシナリオに近い形で、いち早く人々の特徴とオフィスでの社員の交流の中で垣間見える生産性を、データを通して数値化・可視化し、企業文化及び組織改革を行っている企業があります。例えば、三井物産は、個人情報に配慮しながら、オフィス内での社員の行動データをスマートフォンで記録し始めています。それと同時に、社員同士の偶発的な出会いや、自発的な意見交換を促進するための空間的有効性を取得データを利用しながら検討し、オフィス設計とその運営に活用しています。同様の社員の動きをデータ化し、組織変革に動き出している取り組みは、三井物産のみならず、日立製作所や、パナソニックにも見られています。
 

スマートシティの取り組みは多数ありながらも、どこか目に見えた成果を感じることが難しいのが現状です。そこで、私たちの生活の大部分の時間の時間を占める仕事場での、目的や取得方法を制限した利活用から始めていくことが、結果的に社会全体のデータ利活用を不自由なく推進していくためのより良い近道だと考えます。

 
 

参考


 
   


   

エブリセンスの運営するデータ取引市場サービス「EverySense Pro」はこちら。