オルタナティブデータをめぐる投資家とデータ取引市場の相乗効果
オルタナティブデータ獲得チャネルとして利用可能なデータ取引市場の役割
概要
今現在、オルタナティブデータ活用が活発化しています。最近は、その活用が、従来のヘッジファンドや投資だけではなく、あらゆる金融機関にまで浸透し始めています。そのアクセシビリティは急激に上がり、データ駆動型の意思決定が今後一般化していくと予想されます。しかし、さらに独自性・即時性の高いデータを長期的に探索し続けるには、データの流通チャネルの拡大と交渉手段の多様化が必要になってきます。
そこで、今回は、データ取引市場がオルタナティブデータ流通エコシステムの成熟のために、重要な役割を担うと考えてシナリオを書きます。データ取引市場は、個人投資家とデータベンダーの間に仲介し、両者の間で投資関連データの共有を促すと同時に、他のデータ提供者が提供している、種類に富んだオルタナティブデータを探索することができると考えます。
-
- 課題
-
-
- ・高価格なオルタナティブデータを個人が取得する難しさ
- ・個人単位でのオルタナティブデータ分析の難しさ
- ・無条件下における個人情報取得に対する同意形成の難しさ
-
-
- 目標
-
- ・個人投資家のオルタナティブデータ活用のための基盤作り
- ・分析データ提供を通しての簡易的な可視化ソリューションの提供
- ・同意を得た個人データ収集の容易性向上
サービスシナリオ
このシナリオでは、データ取引市場が個人投資家のオルタナティブデータ利活用の際に果たしうる役割について考えます。データ取引市場とオルタナティブデータがどのように相互に作用し、個人投資家とデータベンダーお互いの利益になりうるのかについて、見てみましょう。
⑴ オルタナティブデータの趨勢とその是非
まず、オルタナティブティブデータとは何でしょうか。
実は、今のところ外部の公的機関によって定められた厳密な公式の定義は存在しません。しかし、広義には、伝統的に投資判断に使われてきた財務情報、株価、マクロ経済統計などのデータに対して代替可能な情報のことを指します。従来は、その活用は、従来のヘッジファンドや機関投資家に限られていましたが、最近になって、あらゆる金融機関、さらには個人投資家にまでその活用が浸透し始めています。
REFINITIV(2020)のレポートでは、オルタナティブデータに対する投資の拡大やそれが一過性の流行ではないこと、そして今後ますます増大するデータとなりうる正当性について言及されています。Greenwich Associates(2019)によるトレーダーを対象とした調査によれば、トレーディングプロセスにおいて、オルタナティブデータの価値は今後3〜5年の間で上昇するという回答が95%にも上っています。ここから、少なくとも今後数年でオルタナティブデータに対する信頼感が市場において浸透していくという期待があると言えるでしょう。
しかし、このオルタナティブデータの取り扱いには、現時点で4つの障害があると議論されています。
1つ目は、主な供給源として点在するデータベンダーからデータを購入する際のデータの値段の高さです。
2つ目は、オルタナティブデータを提供するのは、個人情報を含むものであることが多いにもかかわらず、個人情報保護法の関係で、企業は正当なルートを経て個人の同意が得られたデータを取得することが難しいということです。つまり、個人はデータは提供できるが分析ができないのに対し、企業は、データの分析はできるが、収集が難しいという両者間におけるデータの利活用相互循環メカニズムが未発達なのが現状です。
3つ目は、従来の伝統的経済統計を含めたマクロデータのみでは、投資の意思決定の高度性において、他社との差別化が難しいということです。
4つ目は、オルタナティブデータは、公式の政府統計や企業統計などの従来の伝統的データを補完する、投資意思決定の更なる高度化のための材料でしかないということです。依然として、今までの伝統的データの重要性を凌ぐことはなく、それら公式統計に基づいた分析があってこそ、進化を発揮するといえます。それゆえ、取り扱いに際しては、高度な知識を必要とします。この点は、3つ目の問題と対立するという点で、対応が難しいところです。
⑵ 変化する投資事情と求められる戦略
ここで、日本の投資界隈の現状を見ると、直近数年で投資家の趨勢が大きく変化してきているようです。
個人株主数の傾向に着目すると、2014年から2019年までの間で、6年連続で増加傾向にある一方で、株式保有金額は、減少傾向にあります。さらに、日経マネーが実施した「2020年個人投資家調査」によると調査対象の3万4973人のうち、2020年から投資を始めた人(投資歴6カ月未満で昨年投資実績がない人)は3777人。そのうち、20~30代が5割超を占めています。これは、投資家の世代交代が進んでいると言えます。
しかし、今後必要となる投資家の戦略に対する要求は、2020年を期に大きな転換を迎えるかもしれません。世界中に蔓延し、猛威を振るう新型肺炎によって企業戦略は、大きなパラダイムの転換を迫られており、そこから発生する様々な種類のオルタナティブデータに基づいた投資戦略の高度化の追求は不可避です。また、それに伴い、データ分析や市場構造に関する幅広い知識などは分析に際し必要になってきます。
⑶ オルタナティブデータをめぐるデータ取引市場と投資家
以上の状況を踏まえて、個人投資家が、投資の意思決定の高度化を図り、長期的に利益をあげたいとなった場合、身につけるべきデータ取得のスキルや知識、そして見方などは多岐にわたり、多くの時間とコストを要することになりかねません。
そこで、データ取引市場では、個人投資家、特に初めて間もない人のために、以下のような仕組みを提供できると考えます。
個人投資家は、自分の取引データやポートフォリオをデータ市場にて提供します。一方、データベンダーや事業会社はデータ取引市場において流通しているそれらのデータを購入し、個人データを収集します。その後、加工を経た集積データとそれらの分析結果を市場にて個人投資家向けに提供することができます。
このシナリオにおいて注目するべき利点は3つあります。
1つ目は、データ売買価格の最適化及びオルタナティブデータに対する敷居の低下です。個人投資家のみならず、従来データベンダーなどと直接取引していた機関投資家やベテラン個人投資家のオルタナティブデータに対する参入障壁を低くできます。それのみならず、市場においてオルタナティブデータとなりうる可能性を秘めたデータが流通しているため、投資の意思決定に寄与する材料を、相互交渉により適正価格にて取得できる可能性が大幅に増加します。つまり、データ取引市場が新しい仲介者となることにより、データベンダーによって故意に設定された不適正価格を是正するとともに、豊富な種類の潜在的なオルタナティブデータが市場全体にスピルオーバーする可能性を秘めているという点において、このシナリオは、データ取引市場とオルタナティブデータが相互補完的に機能しているといえます。
2つ目は、個人投資家と企業間の双方向的な需要の充足です。データベンダーは、データを個人投資家から収集し蓄積データとして統合することで、他種のデータと掛け合わせた分析へ活用できます。また、あらゆるオルタナティブデータは、金融派生商品のクライアントのポートフォリオや過去の取引意思表示に照らして、可逆的に分析・検証が可能です。
一方、個人投資家は、彼ら自身が個人的な取引情報を提供することを許可したことの見返りに、トレーディングのトレンド分析情報を市場で容易に得られるというメリットがあります。
3つ目は、投資市場における不確実性の把握です。例えば、株価などの金融派生商品の評価価値は、世界中で起こるあらゆる出来事の影響を受け、生き物のように変化します。その変化は、極端に言えば、投資市場に参加する一人一人の投資家の意思決定の総体を反映しています。彼らの意思決定に関する定性的な属性や指標を捨象することなく、投資の意思決定の細部まで網羅的に把握し、経験的に検証することは、投資の際の予測の妥当性をさらに確実なものにできる可能性があると考えています。